草原で馬に乗ることは、誰しもが夢見ることと思うが、日本では実現できるところがなかなかない。数百メートル歩いて終わり。たいていがその程度だ。
しかし、モンゴルでは草原を馬で歩くことができる。歩くことができると書くのは初心者なので走れないからなのだ。本当は走りたい。でも初心者にはなかなか難しい。
馬も坂道を登り続けると、人と同じように汗をかく。立髪に手をやるとじんわりと汗をかいている。がんばれがんばれと、重い私を一生懸命運んでくれる馬が愛おしくなる。汗がじわりじわりと滲み出てきて、立髪が汗でぐっしょりとなる。山の頂上付近では、首筋から馬の背まで汗でびっしょりだ。
人も座っているだけでも結構な力を使う。膝でしっかりと挟み込み、手綱を握りしめる。突然止まって勢い余って振り落とされそうになることもある。首筋を撫でて、話しかけるようにしたら、気持ちが通じたような気がした。重いのにありがとう。そう思いながら首を撫でると、一歩一歩力強く登っていく。これが一馬力か、と思う。原付のスーパーカブは三馬力くらいだったけれど、馬の方が草原は進みやすい。
馬の背にしがみつく時には結構筋力を必要とする。初めてだから体に力が入っている、ということなので、慣れるともっと楽に乗れるそうだ。
でも、楽しい。嬉しくてつい笑顔が溢れる。バイクと違って生き物だから、汗をかきながらも登る馬の熱を足で感じる。同じ熱でもエンジンから伝わる熱とは異なる。生き物としての躍動が伝わる。
山の頂上で馬から降りると、思わずありがとう、ありがとう、という言葉が口から繰り返し出てきた。
馬が歩く時は、いちに、いちに、という感じで進む。少し早足になると、パカ、パカ、パカ、パカ、というテンポ。これが走るようになると、パカラッ、パカラッ、パカラッ、パカラッ、となる。私はパカラッのテンポで最後少しだけ走ることができた。ほんの数十秒のことだが、生まれて初めて馬で走った感覚は一生忘れないだろう。
降りたあと、まだその余韻が残っている。高揚感が収まるにつれて、心なしか膝が痛いことに気づく。力が入りすぎていたからだろう。手綱をぎゅっと握りしめていたから腕の筋肉も張っている。背筋も久しぶりに使った後のような張りがある。腰は最後走った時に足で体重を支えることができずに、ガンガン上下動を繰り返したせいか、ちょっとだけ痛い。でも動けないほどではない。
翌日、全身が筋肉痛だった。太ももの内側が長距離走後のように痛い。膝のつなぎの筋が痛い。首の筋が張っている。手綱を握っていた右腕だけでなく、左腕も痛い。背筋が腰の痛みと連動している。腹筋も力を入れると攣りそうだ。馬術がオリンピックの競技であることが理解できた。紛れもなく、これば全身を使うスポーツだ。
またいつか、馬に乗ってみたい。日本ではこのようなホーストレッキングができるところはないだろう。いつかモンゴルに来て馬に乗るぞと心に決めた。