Just do it !

とりあえずやってみよう。考えるのはそのあとだ。


甲州街道44次 Day2 府中−日野−八王子−駒木野(高尾)

府中から高尾まで、歩いてみない?

そう妻に聞いてみると、行こうかな、と言う。

東海道、中山道とずっと一人で歩いてきた。一人で歩くと自分のペースで歩くことができるのが良い。一方で、ずっと一人で黙々と歩き続けることになる。誰とも話をしない、という日が続くと、それはそれで、体験を共有できない寂しさに襲われる。

山の中にいきなり連れて行くと、嫌になるかもしれないし、見慣れた都心のど真ん中を歩いても、新鮮さがない。府中から高尾なら、知っているけれど、あまり行ったことのないところ、となるので、少しだけ街道を歩くにはいいかなと思った。

いつもなら、朝五時には家を出るところだが、あまり急かして嫌になるのは困るので、ゆっくりと六時半頃起こして、七時半頃家を出た。府中に着いたのは、九時頃だった。

高尾まで約二十キロ。距離としては短いが、時速四キロで計算すると、徒歩五時間。休憩を入れて、六時間くらい。三時頃には帰路につける。程よい距離と程よい疲れとなる。

府中から高尾の間に、何か特色あるものがあるかと言えば、何もない。何も無いから二人でとりとめもないことを話しながら歩く。たいていは、子どもたちのことだ。次の学費の支払いをどうしようか、とか、まあ、大したことではない。日頃話せないことを話しながら歩く。

府中には大国魂神社がある。何かの行事があるのか、朝から行列が出来ていた。

神社の先の交差点には高札場がある。日本橋から始まって、漸く街道らしいものと出会った。甲州街道は今でも現役で日々の生活を担っているせいか、歴史を感じさせる案内が、ほとんどない。東海道とは大違いだが、中山道も似たようなものだった。東海道も愛知県に入ると、途端に素っ気無くなるが、各地の教育委員会の力の入れる場所が地域によって異なるのだろう。

旧甲州街道は府中の先で、国道二十号線と合流する。しばらく車の騒音の中を歩くことになる。それまでは二人でとりとめもないことを話していたが、とうとう大声で話しても聞こえないので、話すのをやめた。黙々と歩き始める。

少しずつ、多摩川が近くなり、するとなんとなく遠くに来た感が沸く。

奥多摩街道の案内が見えて、そちらの方向へ歩く、しばらくするとそこから旧甲州街道は多摩川の方へ下って行く。

昔の街道筋というのは、緩やかな曲線を描くことがあり、この坂などは、まさにその理想的な緩やかな曲がり具合で、多摩川の渡し舟の乗り場へと連なる。

川の向こうも今は東京だが、当時は少し遠くに感じたことだろう。今では橋もあるし、モノレールもあるし、JR中央線も走っている。別世界というよりは、一つの地続きの町であるように感じる。

しかしながら、江戸の頃は、日野と言えば川を隔てた遠い土地。新撰組の土方歳三や近藤勇などが、多摩川の向こうから江戸の武家社会への憧れを膨らませていたことを考えると、荒川を挟んで東京都民を見る、今の埼玉県民のような心境であったことを想像する。

多摩川を越えて、しばらくすると、日野の宿。ここには都内に唯一現存する本陣の建物が建つ。

ここから日野駅にかけてがかつての宿場町。今でも往時の賑わいを感じさせる。

日野駅を通過して旧な坂道を上ると、その先には台地が広がる。

ここから先はほぼ一直線に小仏峠の方角へ道が延びる。

台地に上ると、そこには日野自動車の広大な工場が続いていた。その周囲には住宅街。勤めている人たちの家だろうか。日野から都心までは電車で小一時間。通えない距離ではないが、近いとは言えない。

右手に工場、左手に閑静な住宅街を見ながら黙々と歩く。国道二十号に出れば、食事のできるところもあるだろうと考えていたけれど、何もなかった。

それでも、工場の門の前に蕎麦屋があったので、昼の食事は天ぷら蕎麦、ということになった。

ランチの後は。ただひたすら歩く。大盛りを頼んでしまったせいか、胃がもたれる。普段、一人のときは、コンビニのおにぎりで済ますのだが、下手に食堂へ入り満腹になると、かえって歩きにくい。

八王子を過ぎたあたりで、立派なイチョウ並木が始まる。秋なので、銀杏が転がり始めているので、踏みつけないように無駄足を運ぶ。

それでもグチャっと、足裏に銀杏の実を感じた時には、少し気分が滅入る。

まだ、秋本番とは言えない季節でこれだから、最盛期にはとても歩けたものではないだろう。

でも、銀杏好きにはたまらないかもしれない。茶碗蒸しに入れて食べてみたい。でも、銀杏だらけの道を歩くのは勘弁したい。まだそれほどの量でもなく、良かった。

しばらくすると、多摩御陵の入り口に差し掛かる。多摩御陵が大正天皇と皇后。武蔵御陵には昭和天皇と皇后の墓がある。その入り口付近には、警察署が建っていた。ピラミッドを守る、スフィンクスのようだ。

墓を守るということも、警察の重要な役割なのだろう。

小仏峠手前の宿は駒木野宿というが、現在の高尾駅からは、少し離れている。

久しぶりに歩いたせいか、わずか二十キロでも結構疲れを感じる。続けて歩くのではなく、時々歩く場合には二十キロ程度でも良いかと思った。

今回は高尾までで終了。次はいよいよ小仏峠を越える。