18日間かけて、一人で東海道を歩きました。東京日本橋を出発して京都三条大橋まで。その中でも特に心に残った名所ベスト3をご紹介します。
おすすめスポット 1.潮見坂 白須賀宿
信長の見た最後の富士山
潮見坂をようやく上り、一息つきたいと思うちょうどよい場所に、おんやど白須賀という施設があります。
エアコンの効いた建物の中で一休みし、白須賀の宿についての展示を見終わって、施設を出るときに職員さんが声をかけてくれました。
その職員さんは、立ち話をしながら表に出ると、「天気の良い日は、こちらの方向に富士山が見えます」と、人差し指で、指し示してくれました。
夏の暑い日でしたので、薄い雲が空にかかり、指さした二軒の家の屋根と屋根の間には、何も見えませんでした。
しかし、京の都から歩き始めて一週間、ようやく富士の山が見えたときの人々の感激は、その指先の雲の上に想像できました。
潮見坂を上ったところに、家康は茶室を建て、信長をもてなしたといいます。眼下に広がる遠州灘と、遠くに霞む富士を見ながら、茶を愉しむ。
武田勝頼を倒したあと、信長に駿河を安堵された家康。信長への最大級のもてなしとともに、一緒に仰ぎ見た富士の山。
信長はこの一月半後に本能寺の変で討たれます。ここで信長は人生最後の富士山を見た。そう思うと、感慨深いものがあります。
津波で引越した白須賀の宿
白須賀の宿は、もともと海岸沿いにありました。ところが、1707年に起きた津波で潮見坂の上に引越したとのこと。
浜松湖畔にある新居の宿から白須賀の宿にかけて、遠州灘沿いの崖の下を歩きます。いまでは遠く離れたところに海岸線が見えますが、江戸時代にはずっと手前に海岸線があったと思います。
潮見坂の上には住宅街が広がっています。対象的に潮見坂の下、海沿いには建物らしい建物がほとんど建っていません。
遠く数百メートル先に高速道路とその脇を走るバイパスが見えます。
百年に一度くらいの周期で津波に襲われているようなので、わざわざそのような地域に建物を立てる人は少ない、ということが、目に見えてわかります。
おすすめスポット 2.金谷坂の石畳 金谷宿
東海道といわれて、誰もが思い浮かべる石畳。
かごに乗った人、歩いて上る人。ひとびとの往来を石畳の上に重ね合わせるのではないでしょうか。
実際に石畳を歩いてみると、歩きやすい石畳と、歩きにくい石畳があることに気づきます。
見た目はほとんど一緒です。インスタグラムで拡散された写真を見たところで、歩きやすいかどうかまではわかりません。
たいていの人は、石畳の上で一、二枚写真を撮り、クルマで去っていきます。
よく考えずに並べた石畳は、とても歩きにくいものです。石畳は歩きにくいものと、これまで、そう信じてきました。石畳は歩きにくいという、その思い込みを打ち破ったのが、金谷坂の石畳でした。
歩きやすいし、滑りにくい。こけむしている石もありますが、滑りません。石の上を歩くとき、歩きやすいように、向きを考えて並べてあるのがわかります。
集めた石も、滑りにくいものを選んで並べたのでしょう。いままでに歩いた石畳は、様々な石が混ざっている場合も多く、つるんつるんの石もあり、石の上に乗ることが出来ず、石と石の間のくぼみに足を滑らせながら歩かなくてはならず、怪我をしそうなところさえある始末。
金谷坂を上ったところに、説明書きが置いてありました。
この石畳は地元の人達が自分たちの手で並べたそうなのです。
島田宿のある大井川から金谷宿、そして小夜の中山にかけてのこのルートは、島田市の管轄。おそらく、地元の人達の熱い想いと、同じ想いを持った多くの住人たちが、島田市役所や教育委員会のなかにいるのだと思います。
観光産業が儲かりそうなスポットが周辺にないため、あまり注目を集めていないかもしれませんが、島田市のこの東海道を大切にする人々の気持ちは、歩く人には伝わるものです。
これからも、この美しい風景と東海道を大切に守り、後世に伝えていただきたいと思います。
おすすめスポット 3.富士山 吉原宿(富士市)から由比宿
東海道でもっとも美しいもの。それは富士山。私はそう思っています。
東京からでも、冬の晴れた日には見ることが出来ます。わが家からはちょうど目の前に一本の大木が立っているため、直接見ることは出来ませんが、少し角度をずらした位置に移動すると、富士山の雄大な姿を拝むことが出来ます。
富士山は、そのことば通り、拝むということばがふさわしく、東京の街なかを歩くときも、その姿を目にしたときには、思わず心の中で手を合わせたくなります。
そんな富士山が目の前に大きくそびえ立つのが、富士市。
箱根路あたりから、富士山はその姿を大きく見せ始めますが、富士市はまさに富士山の真正面。こんなにも大きな富士山を毎日仰ぎ見られる富士市の皆さんは、なんて幸せなひとたちだろうと、思います。
富士山はどこから見ても絵になります。箱根の芦ノ湖から見る富士山は格別ですし、三島に下っていくときに、右手に見える富士山も美しいことでしょう。
今回、箱根からの下りは、雨の一日だったので、この目で見てはいませんが、車で箱根へは何度も出かけていますので、その都度富士山を探しては、ありがたやと、心のうちで手を合わせて拝んでいます。
富士山を真正面に見上げる富士市。かつては吉原宿と言っていました。
ここで泊まったホテルが素晴らしかった。
泊まる部屋にもよるとは思いますが、真正面に富士山が見える部屋はもう最高。斜め前に富士市役所の大きな建物があります。でも、ちょうど目の前には市役所の芝生が広がり、その向こう側には高い建物がないため、窓枠にしっかりと富士山を掲げることができます。ため息が出るほど美しい。
チェックインしてからずっと、夕方の富士、朝焼けに映える富士、雲のかかる富士と、その姿を次々と変える富士山。その美しさを幾重にも変えて魅せる富士を堪能できました。
富士市から由比の宿にかけて、今度は富士山から遠ざかります。前に進みながら、ときどき立ち止まり振り返る。
疲れて目を地面に落としがちなときでも、ふと立ち止まって振り返れば富士の雄大な姿が目に入ります。
さあがんばろう。そう背中を押されているようで、そんな日は一日中、幸せな気分で歩くことが出来ます。
富士市から富士川を渡り、太平洋岸に南下し始めると、しばらく富士山も家並みに隠れます。しかし、そんなときでも、思いがけなく富士山は、その姿を目の前に現してくれることがあります。
南下して太平洋岸の道へ降りていく直前、東名高速道路を渡ります。
どーんと大きく富士山。
太平洋岸にでて、由比ヶ浜の方へ曲がると、しばらく富士山とはお別れ。そして薩埵峠で雄大な富士山を最後に仰ぎ見て、興津の町へと下っていくのです。