朝の目覚ましで鳴る音。朝目覚めの時に聞こえてくる、スマホのアラームの音が聞こえてくる。
ピンと張り詰めた空気が車内に走る。
胸の辺りを触る人。ポケットに手を入れる人。バッグの蓋を開ける人。何もしない人もいる。
音は私の二、三メートル前から聞こえてくる。
一通りガサガサした音が聞こえた後、まだ、鳴り続けている。少しイラついた空気に変わる。
誰も動かない。
すると突然音が止まった。誰かが何かをしたようではない。突然止まった。
安堵が車内に広がる。
電車は走り続ける。
鉄輪が線路を喰む音の中で、また先ほどのアラームが鳴り始めた。
今まで動かなかった人たちが、カバンの中を見る。さりげなく。そっと。今更見ているのもな。
ドアの脇に立っているおじさんが胸ポケットの辺りを触った。あれっと表情を一瞬した後、胸のポケットに手を入れて、手を引き出す。音が止まった。動きが見えていたのは私だけ。おじさんはゴミをポイ捨てしてさりげなく去っていくように、駅に着いた電車から降りていった。
電車が動き始めた。
また、いつもの通勤電車に戻った。