私には上司が何人かいる。また、組織上の上司と、業務上の上司とに分かれている。三つくらいの業務を担当しているので、それぞれに上司がいる。そして、業務上の上司には、今まで一度も会ったことがない。なぜなら、みな日本にいない。
ひとりはシンガポール。ひとりはデリー。ひとりはバンコク。それぞれ各部門のアジア太平洋地域を取りまとめている人たちだ。
全体会議はすべてオンライン。各国の担当者と会ったことはない、顔も知らなかったりする。終身雇用ではないので、各地の担当者は頻繁に変わることが多い。それで私が困ることもない。
私は日本国内の他部門の人たちに、自分の担当範囲のサービスを行う。なので日本法人の社員はお客様のようなもの。実際、お客様と思って接している。聞かれたり、頼まれたことに対応していく。
組織上の上司というのは、例えば、執行役員や、取締役、ということになるが、この人たちは、私に指示はしない。同じように聞いてくるだけだ。評価の時には、その人たちの意見が反映される。
エッセンシャルワーカーと言われる人たちは、場所が固定されたり、その人がいないと仕事にならないということになるので、必要とされる場所にいなければならないが、私はそのような立場ではない。極端な話、明日からロンドンへ行っても、カイロへ行っても、ネット環境さえあれば、どこでも仕事ができる。とは言っても、ノマドワークのようなことは許されてはいない。仕事は家かオフィスでしなければならない。
加えて、私はワークシェアリングで仕事を分担しているので、週三日か四日だけ働いている。たまには顔を見せないと、忘れられてしまうので、週一はオフィスに出ている。
給料は平均的なものだが、どこかへ転職しようという気が起きない。もうすぐ年金支給開始年齢になるので、無理して高い給料を求める気持ちもない。かと言って、窓際族で定年を待っているというわけではない。外資系企業では、そんなことは出来ない。仕事をしていないと思われれば、すぐにデスクが無くなる。
ほどよい緊張感とほどよい勤務体系が、今の私を支えている。必ず出社しなければならないところでは、もう無理だ。働けない。