普通のゲルは天井に布を被せて夜は風の侵入を防ぐのだが、私が泊まったゲルの一つは高級なタイプで、天井に電動開閉式のアクリル板の天窓がついていた。
寝る時に真っ暗になると、何も見えないので、トイレの電気をつけて寝たのだが、連動する電動ファンの音がずっとなり続けてうるさいので、夜中に目が覚めた時にトイレの電気を消した。
しばらくは、漆黒の暗闇といった感じだったが、じっと暗闇に目を凝らしているとやがて薄らぼんやりと目が馴染んできた。
暗闇と思っていたゲルの中だが、天窓から月明かりがさしている。ゲルの内壁にまんまるとした明かりの輪が浮かび上がっている。入り口のガラス戸からも誘導灯の明かりが見えている。
ゲルの中が見えるようになると、天窓の向こうに月が見えた。寝る時には少し雨音が聞こえていた。雨が降っているなら、星空は無理かな。そう思っているうちに眠りに落ちた。
東京の街中では、家の電気を消しても街灯の灯りが家の中まで届く。遮光カーテンをつけないと、部屋の中を暗くすることもできない。
モンゴルの草原で電気を消して天窓を見た。月明かりを久しぶりに感じた。最後に月明かりを意識したのはいったいいつのことだろう。